介護病院の看護師に転職する上でノーリフトポリシーの考え方はとても重要です。ノーリフトポリシーは介護病院において腰痛予防策としても、患者さんにとっての安全・安楽という側面からも、看護師にとって合理的な方法であり、転職前に是非とも身についておきたい知識です。
身体介助や体位変換などで腰を酷使する看護師さんにとって、「腰痛」は職業病の一つだといえます。特に急性腰痛症(いわゆる、ぎっくり腰)は多く、悪化すると椎骨の間の椎間板が変形・突出し、鋭い痛みが慢性的に続く腰部椎間板症や椎間板ヘルニアになることも。また、さらにこの椎間板が脊椎や脊柱管を圧迫してくると、安静時にも痛む腰部脊柱管狭窄症となり、生活自体が困難になってしまうケースもあります。
そのため、看護師個人のレベルではもちろん、病院全体として、ひいては国全体として、「看護師さんの腰を守る」対策が求められています。しかし、日本看護師協会の調査(2014年実施)によると、「病院全体で腰痛予防に取り組んでいる」と回答したのは38.1%(回答数=3,564)にとどまっているのが現状です。
●押さない、引かない、持ち上げない、ねじらない、運ばない
介護病院では、転職後の腰痛予防のための抜本的な考え方として「ノーリフトポリシー(ノーリフティングポリシー)」をご存知でしょうか? オーストラリアの看護師業界から生まれたもので、介護病院のケア動作において「押さない、引かない、持ち上げない、ねじらない、運ばない」を徹底する考え方です。確かに、これを実現できれば、転職後の看護師の腰痛リスクは大きく下がることになります。
ノーリフトポリシーに基づく看護師の介護病院では、患者さんの身体を移動させる際にスライディングボードを使う(=滑らせて移動させる)ことは序の口で、起立補助機や移乗用リフトなどの機械も使われています。こうしたツールを利用して、できるだけ人力での身体介助を避け、看護師さんの肉体的な負担を軽くしているわけです。
●日本の介護病院での普及にも期待!
このような話を聞くと、「患者さんをモノ扱いするなんてヒドイ!」「人の手を使わず機械を使うなんて、そんなの看護師じゃない!」と思われるかもしれません。また、「ボディメカニクスを正しく用いれば、腰痛リスクは下げられる」という看護師からの指摘ももっともなことです。ただ、介護病院で看護師さんの腰痛が多発している現実を前に、合理的で抜本的な解決策を模索することも必要で、その一つとしてノーリフトポリシーは有力だといえるでしょう。
また、患者さんの側にとっても、人力での介助を受けるときは身体が緊張して疲れを覚えたり、筋緊張から拘縮が起こったりすることもあるそうです。ということは、患者さんの安全・安楽という側面からも、ノーリフトポリシーは理に適っているといえるでしょう。
導入コストがかかることもあり、日本の介護病院でノーリフトポリシーが一般的になるまでには時間が必要かもしれませんが、転職前にますますの普及を期待したいところですね。